このページはリニューアル前(2023年6月時点)に公開していた旧デザインのページです。
このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。
リニューアル後のホームページはこちら

ホーム > R&D , ガイダンス , 企業内での業務内容 > 研究開発における医師の役割

研究開発における医師の役割


◆研究開発 - R&D 関連の最新記事
・【文献掲載情報】昨年の第8回 日本製薬医学会の文献ご紹介(3)
・記事紹介:新薬が承認されるまでの道のりとPMDA
・記事紹介:臨床試験の立案・実施
・研究開発における医師の役割

はじめに

 製薬会社は安全性と有効性に優れた医薬品を提供し、病を克服するという人類共通の命題を遂行するために、医療現場、行政、さらには患者集団とともに重要な役割を担っている。
製薬企業の主な役割・使命は、安全で科学的に有効性が優れた医薬品をできる限り迅速に開発し、世に送り出し、その後も正しい使用を促進することである。製薬企業で働く製薬医学専門家は、医療現場、疾患、医療倫理に精通した専門家として、製薬企業の使命を果たすために様々な貢献をすることが期待されており、主として、安全性調査・報告、メディカルアフェアーズ、研究・開発に携わっている。学術的側面からマーケティングに関わっていることもある。本稿では、研究・開発に携わる製薬医学専門家の役割について述べる。



医薬品開発における製薬医学専門家の役割

 医薬品開発の大まかな流れは,候補物質の合成・スクリーニングや動物での実験(非臨床試験)→臨床試験(第一相から第三相試験、治験)→承認申請→当局による審査と検討→製造販売承認→薬価収載→発売である。研究・開発に携わる製薬医学専門家は、この流れのいずれにも関わるが、臨床開発において臨床試験から承認申請、その後の当局とのコミュニケーションにおいて主導的な役割を担うことが多い。



臨床開発組織・機能からみた製薬医学専門家の役割

 臨床開発に関わる組織の細部は各社異なるものの、ほぼ共通の機能としては、治験の計画立案を担当する企画部門、モニタリングなど臨床試験の遂行を担当するオペレーション部門、行政とのコミュニケーションを担当する薬事部門、臨床試験成績の集積・解析を担当するデータマネージメント・統計部門がある。最近では第一相試験や臨床薬理試験などを専門的に実施する臨床薬理グループを独立させている会社も多い。
さらにプロジェクトマネージメント、メディカルライティング、市販前の安全性を担当する機能などを、関連部署と統合したり、独立させたりと、各社において、取り巻く環境の変化、会社の方針などによって組織形態は常に変化している。
この中で製薬医学専門家が最も多くその役目を担っているのは、治験の計画立案で、次に臨床試験のモニタリングにおける治験実施医師との医学的な議論、行政対応における医学的側面の支援などの役割である。臨床薬理部門が独立している会社では、そのグループリーダーをしている医師もいる。



企業における製薬医学専門家のキャリア

 大学や研究所で研究していた製薬医学専門家が、初めて製薬会社の臨床開発部門に入った場合の一般的なキャリアについて述べる。
入社後まず、ある新薬開発プロジェクトに医学専門家として配属され、先輩の医師や、経験豊富な臨床開発担当者が務めているプロジェクトリーダーを補佐する役目を担うのが一般的と思われる。この時期に、臨床開発全般の知識、プロジェクトの運営方法、安全性情報の対処、臨床試験のプロトコール作成など、臨床開発の基本的な知識・技能を学ぶ。外資系の会社では、本社とのコミュニケーション、対応の仕方も身につける必要がある。さらには、会社という、アカデミアとは異文化の世界での生き方を身につけることになる。
この時期に、プロジェクトチームメンバーと協調し、また、関連部門との調整を図るなど、会社生活を通じ多くの経験をすることが、その後会社という組織で成功するかどうかに影響すると思われる。また、医師はそれぞれ専門領域を持ち、その領域の新薬開発に力を発揮することが当然期待されるが、国内にある企業に所属する製薬医学専門家の人数は欧米にある企業と比較すると決して多くはなく、現実には専門以外の領域の新薬開発を担当することも少なくない。自身の専門領域の新薬開発を担当できることが理想的で、貢献度も上がると思われるが、臨床開発の経験を積むためには、専門領域に限らずどの領域にもチャレンジすることが有意義であると思われる。

このようにして2-3年経験すると一つのプロジェクトのリーダーとしての役割を果たせる人も出てくる。4-5年も経つと中には専門領域のリーダーとして、複数のプロジェクトを主導し、営業やマーケティングなど会社の他部門と関わることも増えてくる。プロジェクトのアドバイザー的役割を担う教授クラスの外部医学専門家とのコミュニケーションをとる場合の中心的存在となることも多い。
また、この頃には管理職としてマネージメントに力を発揮する人、あるいは臨床薬理などの専門家としての道を歩んだり、安全性やメディカルアフェアーズなど臨床開発以外の機能に移ったり、他社にて自分の興味や将来構想に合致した機会を追求する人も出てくる。6-7年も経験を積むと、我が国での臨床開発のエキスパートとして、学会やシンポジウムでの講演などの機会も増え、中には他社やアカデミアからより高い役職として迎えられる人も出てくる。その後は、各人の将来ビジョン、会社や個人的事情などにより、様々な進路があり得る。



製薬企業で働く製薬医学専門家の素養

 最後に、製薬企業で働く製薬医学専門家の素養について述べる。製薬企業に職を得る製薬医学専門家は、当然ながら医学知識は豊富であり、研究歴も長く、論文やプロトコールの作成、英語でのコミュニケーションなどに強みを発揮する人が多い。これらの技術的要素は企業で働くためには最低限必要な素養として求められる。加えて、高い順応性が備わっており、ほとんどの場合は企業でも順調に成長する人が多い。しかしながら異なる文化・環境になじまず、中には他の進路を選択する製薬医学専門家もいる。
研究・開発領域に限らず、企業で働こうとする製薬医学専門家は、技術的素養以外に、以下に掲げるような社会的素養も必然となってきている。
  ・国際的視野・感覚
  ・Big picture、 Proactiveな考えを持ち行動すること
  ・自分の意見を建設的、かつ明確に言えること、議論できること
  ・革新的な考えを持てること
  ・人を支援するように考えること
  ・People skillがあること

 現在、医薬品業界は急激な変革期を迎えており、企業で働く医師が果たす役割はますます重要になると考えられる。また周囲からの期待もより高くなり、ひいては厳しい目を向けられることも覚悟するべきである。社会に貢献できる製薬医学の専門家としてさらに向上し続けるべく、各人の努力が期待される。



メーリングリストバナー