ホーム > 記事・プレスリリース > オープンセミナーの御報告
オープンセミナーの御報告
8月3日の午後、ヤンセンファーマ社のセミナールームにて、本年度の製薬医学会オープンセミナーをメディカルアフェアーズ部会メンバーの主導で開催しました。ジャーナリスト約20名を含む35名の聴衆を対象に、座長(今村理事長)の挨拶とイントロ、高橋評議員による講演「メディカル・サイエンティフィック・リエゾン(MSL)とは?」、UCBジャパンの笠茂先生による講演「UCBジャパンのメディカルアフェアーズ」に続いて、癌研有明病院畠先生による診療現場からのコメントをいただきました。フロアとのオープンディスカッションでは各社のMSLの方々にもご参加いただき、現場での活動の在り方やMRとMSLの分化について活発な意見交換が展開されました。約90分のセミナーでしたが、ジャーナリストには新しい職種であるMSLを紹介し、またMSL同士が知己を得る場にもなって、有意義な機会になりました。
当日取材に参加された薬事日報社の記者による記事が掲載されていますので、そちらもご覧いただけると幸いです。
製薬医学会のメディア対象セミナーはこれで連続3年目の開催となりますが、製薬医学のさまざまな課題についてメディアの正しい理解を得るために、来年度もまた新たな企画を予定したいと思います。
(報告:今村恭子)
【日本に根付くかMSL】専門職が公正な情報提供‐問われるMR活動のあり方
薬事日報 2010年8月18日 (水)
製薬企業において、営業・マーケティング組織から独立し、医学的・科学的に公正な情報提供を支援するメディカル・サイエンティフック・リエゾン(MSL)の役割が注目され始めている。自社製品の情報提供活動は、営業を担当するMRの役割だが、欧米と違い日本では、製造販売後調査、文献提供にまで関与する特有のMR活動が行われてきた。特に最近、医薬品に関するエビデンスと安全性重視の傾向が強まる中、「MRは自社製品に有利な情報だけを宣伝しているのではないか」と、バイアスへの懸念が高まっている現状がある。既に最大市場の米国では、営業社員の削減が進められ、従来型のMR活動は転換期を迎えている。適切な製品情報の提供とは何か。プロモーションと高度な学術情報の分離に向けたMSLの導入は、日本でのMR活動のあり方を問うきっかけとなりそうだ。
MSLは、営業・マーケティング組織から独立した"ノンプロモーショナル"な職種として、安全性等を担うメディカル部門に所属する。医学的・科学的に高度な専門性を持ち、各疾患領域の専門医であるキーオピニオンリーダー(KOL)などを訪問し、直接的な議論を通じて、医師と良好な関係を構築・支援することが大きな役割となる。自社製品の宣伝は一切行わず、プロモーションと混同しないよう、明確に区別しているのが特徴と言える。
MSLの重要性が高まっている背景には、医薬品を取り巻く社会的な環境変化がある。新薬の種類、作用機序、使用方法が多様化し、多くの医師はエビデンスに基づいたデータを重視し始めている。安全性に対する注目度、企業のコンプライアンス意識の高まりも、質の高い情報提供を行うMSLの必要性を後押ししている。これまで医師にとって、MRの情報提供は「自社製品に有利な情報に偏っているのではないか」と、バイアスへの懸念が拭えなかったのも事実だが、もはやMRの情報提供だけでは、対応が不十分な時代と考えられている。
実際のMSLに必要な要素は、医学・薬学に関連する博士、修士等の学位取得者が望ましいとされ、製薬産業での経験、医学論文を理解できる英語力、外部対応に必要な対人能力、社交性も要求されている。既に欧米では、確立された機能として、数千人のMSLが存在すると言われ、医学・薬学等の博士レベルを持つ人材が多く活躍しているようだ。ほとんどのMSLは、製薬企業でメディカルアフェアーズ部門に所属し、営業・マーケティングから独立した研究・教育関連の業務を担っている。
現在のMSLの中心的機能としては、KOL対応と臨床研究支援が挙げられる。新薬開発の早期段階では、治験薬に関わる疾患領域のエキスパートであるKOLと関係を構築。最新の医学情報を正確、タイムリーに提供すると共に、開発部門との情報共有、臨床試験の施設紹介など、社内関連部門への支援を中心に行う。開発後期から市販後にかけては、KOLを増やすことで、より多くの医師へのアクセス拡大を目指すと共に、社内外での教育を計画、実施する。さらに市販後には、医師の自主臨床研究支援が重要な業務となるなど、新薬開発の早期段階から市販後まで、幅広い役割が期待されている。
ただ、社内的に営業・マーケティング組織から独立した職種とはいえ、医師から見るとMRとMSLの違いは分かりにくいのも事実。特に日本では、製造販売後調査にまで関わる特有のMR機能、医師と製薬企業の関係、独特の商習慣など、こうした歴史的な背景がMSLの確立に大きな障害となることが予想される。
実際、国内の外資系製薬企業を中心に、MSLを構築する動きが見られているものの、まだ黎明期にある状況で、MSLの確立に当たっては、現行のMR活動の見直しなど、多くの壁を乗り越えなければならない。ただ、製薬企業の売上を支えるMR活動のあり方を変えるのは容易なことではなく、プロモーションを担うMRの役割、科学的に高度な情報提供を担うMSLの役割をいかに区別し、どう新たな職種を日本に根付かせていくのか。まずはMSLの導入を含めた議論を深めていく必要があるだろう。
(以下、薬事日報リンクへ)