製薬医学教育コース
製薬医学教育とは
製薬医学教育の背景 - Background of education in pharmaceutical medicine
待ったなしの人材開発
今日、医薬品・医療機器産業のグローバル化で国際共同試験が主流化し、リスク管理でも国境を越えた連携が不可欠になっています。この様な状況下で、海外に遅れずにグローバル開発に参加するには、研究開発プロセスや各国法規制・医療体制・診療行動を熟知したメディカル・ディレクターの戦略的リーダーシップに負うところが大きくなっています。
また、診療現場のアンメット・メディカル・ニーズの解消に向けた医師主導治験・臨床研究の振興にも、経験豊富な医工薬学の専門家が必須と考えられます。
さらに、多くの専門技官を擁する海外規制当局との対等な議論が日米欧のハーモナイゼーションの進展に必要不可欠であることを考えると、製薬医学の人材育成は我が国の産官学すべてにおいて火急の課題となりつつあります。
成功の鍵は教育にある
EUでは「製薬医学(PharmaceuticalMedicine)講座」が各大学に発足、国際製薬医学医師連合会(IFAPP)による標準化を経て、IMI(革新的製薬イニシアチブ)のもとで教育プログラムPharmaTrainへ発展しました。卒業生は各界で活躍し、再生医療をはじめとする革新的医療の実現に貢献しています。既にアメリカや韓国・中国の各大学もこの教育導入を表明し、2014年以降はグローバル展開が予定されています。
近年、我が国でも論文発表に終始する研究ではなく、イノベーションを市場化する開発が推進されるようになりました。しかし、その基盤となるビジネスとレギュレーションを統合した教育へのアクセスは極めて乏しく、医療機器分野では更に深刻となってきています。
海外での教育・資格認定 - Education and qualification in overseas
USでの教育・資格認定
アメリカでは2006年に開始したNational Center for Advancing Translational Sciences (NCATS)によるトランスレーショナルリサーチの推進事業CTSAプログラムの一環として、臨床試験に関する教育コースがCTSAの支援を受けた研究機関で提供されるようになりました。
臨床試験分野における医師の資格認定として現在最も有名なのが、日本製薬医学会と同じく国際製薬医学医師連合会(IFAPP)のアメリカ支部団体であるAcademy of Physicians in Clinical Research (APCR)が実施しているCertified Physician Investigator (CPI)試験です。
医師以外の資格認定としては、全米最大の臨床試験教育・資格発行団体であるAcademy of Clinical Research Professionals (ACRP)によるCertified Clinical Research Coordinator (CCRC)とCertified Clinical Research Associate (CCRA)があります。
APCRとACRPは共にAssociation of Clinical Research Professionals (ACRP)として活動し、ACRPが発行するCPI、CCRC、CCRAは2010年にNational Commission for Certifying Agency (NCCA)が臨床試験分野で唯一認定する臨床試験専門家の資格とされました。
EUでの教育・資格認定
ヨーロッパでは1975年にイギリスのカーディフ大学と英国製薬医学医師連合会(BrAPP)の共催で世界初の製薬医学教育コースが開講され、スイスやベルギーなど全欧の大学でも相次いで開講されました。
国際製薬医学医師連合会(IFAPP)で世界各国でのコース開講とカリキュラム標準化を推進した結果、2009年に開始したEUのInnovative Medicines Initiative (IMI)事業の一環として採択され、ここに標準化プログラムPharmaTrainが確立しました。
2014年以降、PharmaTrainはグローバル展開を予定しており、アメリカ、アジアの各国でコース内容をPharmaTrainプログラムに準拠する動きにあります。
資格認定として、イギリスではRoyal College of Physicians (RCP)が試験を行い、合格するとFaculty of Pharmaceutical Medicineの専門医として認知されます。同様にスイスでも医師に対する製薬医学専門医としての評価が確立しています。医師以外の受講者に対しては、一定の評価試験に合格した場合にSpecialistのタイトルが発行されるコースもあります。
PhamaTrainのオンライン学習プログラム( e-learning/e-test )
1)臨床試験医師向けのCLIC (Clinical Investigator Course)
PharmaTrainのWebsiteでは、臨床試験の分担医師・責任医師・主導医師の3段階のそれぞれに応じたオンライン教育プログラム**CLICを提供しています。今後、日本でもこのCLICに対応したプログラムが開設される動きにあります。
**http://clic.biomedtrain.eu/cms/Default.aspx?page=10500
2) オンライン教育プログラム紹介サイト:e-Directory
上記の他にも、PharmaTrainのWebsiteには医師・医師以外のすべての関係者のための豊富なオンライン教育プログラム***がリストアップされており、個人の時間の都合に合わせて、また、卒後教育としても利用できます。
***http://www.pharmatrain.eu/e-library/e-directory/index.html
なぜ資格が重要なのか? - Why important?
様々な専門職種において、教育研修や訓練の結果、一定の知識や実践力があると判定された場合に修了証書や資格が発行されます。臨床試験に関わる専門職種も例外ではなく、医師、CRC,、モニター等の職種毎に資格が発行されています。肩書きだけでなく、資格を得るまでの教育を通して確実なスキルを会得することが重要で、質の高い成果を生み出す組織には資格を持った優秀な人材がいることが必要不可欠です。
Haeuslerらの研究(Jean-Marc C. Haeusler, Clinical Research and Regulatory Affairs , 2009; 26(1-2):20-23)では、ACRPの発行するCPI(医師)とCCRC(CRC)資格を持った職員が担当した臨床試験と、資格を持たない職員が担当下臨床試験をレトロスペクティブに評価したところ、医師とCRCのどちらかだけではなく両者が共に有資格者として担当した臨床試験ではプロトコル逸脱がずっと少ないことがわかりました。
また、Vulcanoらの研究(Vulcano EM et al, Drug Information Journal 46(1)84-87, 2012)では、資格(CPI)のある医師が担当した臨床試験ではそうでない医師による臨床試験に比べてFDAの査察結果においても優れており、有資格医師による臨床試験ではより軽微な指摘事項で済んでいることがわかりました。
単に資格を持つだけでなく、進んで学び、実践しようという個人の行動特性が組織的に集約された結果が、こうした有資格者に対する評価につながるものと考えられます。
教育目標 - Learning outcomes
製薬医学認定医(士)のCompetencyとは?
時代とともに保健医療上のニーズが多様に変化していく中で、教育機関の提供する専門家教育が対応していくのは容易ではなく、講義が体系化されていなかったり、内容が時代遅れだったり、履歴が固定化すると、現場のニーズとの間にミスマッチが発生します。
近年、様々な人材育成プログラムにおいて、単なる知識の暗記ではなく実際の業務現場で発揮できる個人のCompetency(能力、行動特性)の育成が重視されるようになってきました。国際製薬医学医師連合会(IFAPP)では、その40有余年にわたる製薬医学の実践を通してCompetencyに基づく教育(Competency based education: CBE)の重要性に注目し、学部教育、卒後教育、生涯教育を通して製薬医学・医薬品開発科学における4つの分野でのCompetencyを定義することで教育の明確な目標を提示しています:
- 創薬と初期開発
- 臨床開発と臨床試験
- 医薬品規制
- 医薬品の安全性とサーベイランス
- 倫理と被験者保護
- 医療市場
- コミュニケーションとマネジメント
Statement of Competence (IFAPPによる定義)
製薬医学医師と医薬品開発科学者に求められるCompetency7項目:
The Pharmaceutical Physician/Drug Development Scientist:
- Is able to identify unmet therapeutic needs, evaluate the evidence for a new candidate for clinical development and design a Clinical Development Plan for a Target Product Profile.
- Is able to design, execute and evaluate exploratory and confirmatory clinical trials and prepare manuscripts or reports for publication and regulatory submissions.
- Is able to interpret effectively the regulatory requirements for the clinical development of a new drug through the product life-cycle to ensure its appropriate therapeutic use and proper risk management.
- Is able to evaluate the choice, application and analysis of post-authorization surveillance methods to meet the requirements of national/international agencies for proper information and risk minimisation to patients and clinical trial subjects.
- Is able to combine the principles of clinical research and business ethics for the conduct of clinical trials and commercial operations within the organisation.
- Is able to appraise the pharmaceutical business activities in the healthcare environment to ensure that they remain appropriate, ethical and legal to keep the welfare of patients and subjects at the forefront of decision making in the promotion of medicines and design of clinical trials.
- Is able to interpret the principles and practices of people management and leadership, using effective communication techniques and interpersonal skills to influence key stakeholders and achieve the scientific and business objectives.
ACRPのCPI試験にみる実行能力リスト
Association of Clinical Research Professionals (ACRP)が実施するCertification of Physician Investigator (CPI)試験では、PIとして下記の分野について十分な実行能力があることが求められています(詳細はHandbookを参照ください):
- Investigational Product Management
- Protocol
- Safety
- Trial Management
- Trial Oversight